写真に写るのは、世界最年少のロケット企業CEOである板橋龍一聖氏。
文・風間 真一(2025年1月23日)
まるで未来小説の一場面のような光景が、インドの会議室で現実となった。
わずか16歳にしてロケット企業のCEOを務める板橋龍一聖氏が、インド宇宙開発を牽引するトッ プクラスの関係者たちと真正面から向き合い、その場で、今後10年間にわたりインド国内にロ ケット製造拠点を構築するという前例のない機会を手にした。しかもその役割は、インド宇宙 研究機関(ISRO)の下請け企業として公式に認められるものだ。
2024年11月、イタリアで開催された名門「国際宇宙会議」において、インド宇宙研究機関 (ISRO)が “世界最高の宇宙機関”に選出された直後のこと。
若きCEO、板橋龍一聖氏は、インド・バンガロールにあるISRO本部を訪れ、ソマナス・S・ソマ ナス議長および幹部5名と会談の場を持った。
当初は形式的な表敬訪問として予定されていたこの会談は、思わぬ展開を迎える。ISRO議長か ら、前例のない提案が板橋氏に提示されたのだ。
写真に写るのは、The Rocket Corporation GmbH CEOの板橋龍一聖氏。現在、中東の砂漠地帯にて大型ロケットの発射基地 建設を計画している。
日本出身で現在は欧州を拠点に活動するロケットエンジニア、板橋龍一聖氏は、航空宇宙業界 ではすでに「戦略家」として名を知られており、中東における世界初の民間大型ロケット発射 基地の立ち上げを主導する存在として注目を集めている。
13歳で高校を卒業した彼は、同年に小型ロケットの開発と大学間の国際共同研究を目指す企業 「Caramel Rockets」を創業。 そして16歳で「The Rocket Corporation GmbH」を設立し、アジアとヨーロッパ双方の打ち上げ 需要に応える中東初の大型ロケット発射基地の建設を進めている。
この会談で板橋氏が目指したのは、インド、日本、イギリス、イタリアのトップエンジニアた ちを結ぶ国際共同プロジェクトにおいて、ISROが共同保有という形で重要な役割を担うことだ った。
交渉が進む中、ISRO側から提示されたのは、インド国内において次世代ロケット「NGLV(Next Generation Launch Vehicle)」向けエンジンシステムの開発に、10年単位で関与できるという 前例のないビジネス提案だった。
写真に写るのは、The Rocket Corporation GmbH CEOの板橋龍一聖氏。現在、中東の砂漠地帯にて大型ロケットの発射基地建設を計画している
しかし、この前例のない魅力的な提案に対し、若きCEOはただ受け入れるのではなく、むしろ大 胆な逆提案を行った。
それは——ISROが、これまでの使い捨て型ロケットや一部再利用型ロケットの開発から脱却し、 「完全再使用型の大型ロケット」開発へと本格的に転換することを約束するのであれば、契約 に応じるという条件だった。
この一手は、ISROをスペースXらと並ぶ商業宇宙開発の最前線へと押し上げる可能性を秘めていた。
関係者によると、現時点でこの提案に対するISROからの正式な返答はないという。
ISROはこれまで一貫して科学探査や国家的意義を持つミッションに注力してきたが、今回のよ うな大規模な商業的提携には、政府レベルでの審査と承認が必要となる。
最終的な判断は、インドの宇宙政策の枠組みと長期的な国家戦略を踏まえた上で行われる見通 しだ。
もしISROが板橋氏の提案を受け入れれば、それは極めて稀な官民連携の実現となる。
さらに注目すべきは、それがインド国家の管轄外で進められる初の宇宙関連プロジェクトとな る点だ。
The Rocket Corporation GmbHのCEO、板橋龍一聖氏(左)と、インド宇宙研究機関(ISRO)議長のS・ソマナス博士(右)。イタリア・ミラノで開催された国際宇宙会議にて対話する様子。
インド宇宙研究機関(ISRO)は、すでに世界でも屈指の実績を誇る宇宙機関であり、今後も国 家的利益に資する打ち上げ事業に注力していくことができるだろう。
しかし、もしインドが“宇宙大国”としての国際的な存在感をさらに高めることを目指すので あれば、世界中から集まる若き優秀なエンジニアたちとの連携は、戦略的な一手となる可能性 がある。
とりわけ、中東からの巨額投資がこのプロジェクトに加われば、今世紀最大級の宇宙開発計画 に発展することも夢ではない。
この提携が実現するかどうかは未知数だ。
しかし、ひとつ確かなのは——板橋龍一聖という名は、すでに歴史に刻まれた。
そして今、次なるカウントダウンが静かに始まろうとしている。